2013年7月31日水曜日

ジェイン・ジェイコブズ『発展する地域 衰退する地域 地域が自立するための経済学』

これは古典的名著。1984年に書かれた本だが、いまだに新しい。いや、いまこそ新しいと言うべきか。日本についても詳しくこの本で日本についての記述も多い。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と日本人が舞い上がっていた時代であったが、著者は日本の発展を素直に高く評価すると同時に日本列島に内在する問題として「自立できない地方の中央への依存体質」を鋭く指摘する。この問題は今後の日本にとっての最大の発展阻害要因となるであろうと日本経済の長期衰退入りを予測するのである。それに対する処方箋も的確に書かれているが、残念ながらこの処方箋は政治的な理由によりほとんど実施されなかった(解説を書いている鳥取県知事片山善博氏が彼女の処方箋に沿って努力はしておられるが如何せん地元へのご配慮から隔靴掻痒の感がある)。やっぱり日本経済はその後20年以上衰退を続けることになった。

著者はその道では超有名な人。高等学校しか出ていない独学の市民運動家であるが、都市問題の権威であり、黒川紀章も翻訳を手がけている。孤高の経済学者でもありアダム・スミス以来の経済学をこてんぱんに批判しながら宝石のようなユニークな真理をどかどか提示する。日経センターの重鎮香西泰氏も彼女の本の翻訳を手がけている。近年89歳で亡くなられたのでもう彼女の本は出ないし入手も難しくなるであろう。幸いこの本はちくま学芸文庫入りしたので当面大丈夫。おすすめ。

内容をかいつまんで紹介すると、著者は「国民経済」という平均値的概念を真っ向から否定する。経済を支えるものはあくまでも「都市経済」であり、国家の経済発展を持続的に出来るかどうかは都市経済とその周辺地域の関係がどうなっているかが問題となるという。つまりマクロ経済学は役に立たないと言うこと。ほとんどの場合、都市経済は外的要因によって発展し、発展の成果は都市及び国内地域で浪費され、輸入代替が進まず、発展の要因となった外的要因が消滅すると同時に都市と国の経済が衰退に向かうという。いかなる開発計画も不毛の結果を生むだけで〔TVA はみごとな失敗例〕なんの役にも立たない。役に立つのは自己消費分についての不断の輸入代替努力だけだと(東京周辺の山村「シノハタ〔仮名〕」の例を挙げて〕分析する〔彼女は「輸入代替(Import substitution)」という言葉を使わず「輸入置き換え(Import replacement)」」と言う言葉を使う。理由は書いてないけど輸入代替と言う言葉は過去の経緯から印象が悪いからであろう〕。要は少しぐらい品質が悪くて値段が高くても我慢が大事という。この辺TPP反対論者が大喜びしそうな議論だが、彼女が言っているのは生産性の悪い地域では生活水準をそれに応じて落とさないといけないと言うこと。地方が補助金・交付税に頼って身の程を超える生活を送ることは、その地域ばかりか国家経済全体にとっても破滅的な結果になるという。誤解なきよう。一番いいのは地域がそれぞれ為替レベルを決定できるように地域ごとに独自通貨を持たせることだが、これは政治的に難しくようやらんだろうし、細かい政策を「場当たり的〔インプロビゼーション的)に積み上げて行くしかないと、これまた大人の現実的な処方箋。

日本ばかりでなく、最近のEU問題〔ギリシャ、ポルトガルなど〕をみても彼女の言っていることは重みがある。EUについては「フランスの後進地域へ払う補助金を誰が負担するのかが問題。フランスは先進工業地帯であるドイツと北欧と北イタリアがそのカネを払う仕組みを作りたいが、イギリスはそれに真っ向から反対し、ドイツなどから搾り取ったカネはイギリスの後進地域に回すべきだとしている。これが英仏対立の根本原因だ。」と分析。彼女には20年前から真理が見えていたのである。

発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 (ちくま学芸文庫)

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